プロジェクト
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つくば市・一棟貸し古民家の宿「アイショウ」の庭#2 庭の工事 石を組み、土塀を作る

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溝の排水と清掃のためのくぐり戸。結界の先を垣間見せ、庭に物語性を与えて想像力を呼び起こす
一棟貸し古民家の宿「アイショウ」さんの庭をご紹介するシリーズ#2「庭の工事〜石を組み、土塀を作る」を、現場メモを中心にご紹介します。

↓第一弾の記事はこちらからご覧ください。
#1「つくば市北条 一棟貸しの宿「アイショウ」の庭・古民家リノベーション〜 古木を生かした再生の庭」


アイショウの庭をつくる

1. 事前準備〜地下を読み、材料を調達する

周辺地形の調査と近隣への挨拶


令和5年(2003年)12月
・つくば市北条所在の(株)里山建築研究所から急ぎの依頼が入る。3月末にはプレオープンとの事。
・12月17日、現場にて初打ち合わせ。

令和6年2月4日:現場調査(施工前調査)
・現場に地下2メートルほどの深さの穴を掘り、地層及び地質を調査。
・地元の左官職人を訪ね、北条周辺の土質について伺う。
・穴から掘りだした土で地層ごとに泥団子を作り、現地で乾かす。地層ごとにサンプルを作り、壁土として適するかを判断する。
・近隣の元醬油蔵元の宮清屋敷の庭を見学。地域の排水環境、在来の植物環境などを調査。
・元醬油蔵元(以下宮清さん)に古瓦あり。土塀の材料として最適。使わせて頂きたい旨のお願いをする。

土質調査の様子
私たちは、「その土地のもので庭を作る」ことを目指しています。
植木をはじめ壁土に使用する土、垣根の材料まで、可能な限り土地のものを探し、庭に活かします。特に土は、その土地から出たものが風土に合い、また適していることが多いため、土を使う工事がある場合は必ず土質調査を行います。
穴を掘ることで、その土地で「水」がどう扱われて来たのか、また堆積物を調査することで、その土地の歴史も窺い知ることができます。

2. 施工開始〜御祈祷、材料搬入

〜工事の事前準備〜


令和6年(2024年)2月14日:施工開始
・庭に祀られる屋敷神様にご祈祷を行う。
・道具及び材料(第一陣)を搬入し、施工開始。

庭には屋敷神様の祠があり、工事のために移動が必要です。神主さんをお呼びして、御祈祷を行いました。
2024年2月14日・施工開始時の状況です。
「段取り八分」と申しますが、どのような工事にとっても事前準備はとても大切です。
工事開始前には屋敷に祭られている土地神様にもご挨拶をし、御祈祷後に工事に入らせていただきます。

3. 地割〜石を組み、据える

〜石垣で地割を固める〜


令和6年2月14日:施工開始[メンバー:塩の…2名、農大…1名、筑波大…1名の合計4名]
・地割を行う。既存の景石を移動させて石垣を作り、地割を固める。

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通用路にあった段差を無くして歩きやすくするため、石を積んで左右の土を留めます。
石を積むことで敷地内に用途ごとの境界を作り、起伏をコントロールします。

こちらの現場では、石を組むための動力はすべて人力です。重機が入れない狭い場所でも 、チェーンブロック、三又、コロ、担棒などを使って大きな石を移動し、据えていきます。

庭の工事で使う石には多くの種類があり、石によってその扱いは変化します。
庭の骨格に使った、この既存の筑波石も、固く、重く、一筋縄ではいかない、頑固な石です。
石組み、飛び石、用途によっても使い分ける庭石。石にはそれぞれ「くせ」があり、それが庭の個性と味わいに繋がります。

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伝いに飛び石を据えているところです。水糸を張り、通りを見ながら作業をします。
地産のこの石は、通称「オンジャク石」。熱して懐を温めるカイロ(温石)として使われた、耐熱性・蓄熱性がある石で、柔らかな風情と優しい色合いは通る人をホッとさせてくれます。

4.地割の続き〜排水のための暗渠と溝の工事

〜敷地の水をコントロールする〜


・工事途中で井戸が発見され、工事が難航する。
・調査のために掘った、人の背丈ほどの穴から出た土を捏ね、寝かしておく。これを壁土とする。
・掘った穴は、ガラや茅屑などを入れ、浸透層とする。敷地の水を集めて地下に浸透させ、庭の土質環境改善につなげる。
・3月3日、地割が終わる。帰宅し、土塀の支度に入る。

穴の壁を削り、地層を見ます。地層ごとに土を採取し、今回の大壁に使用する適した土を決定します。
掘った穴は、雨水を浸透させる巨大な排水桝となります。
工事の掘削で出てきた井戸井戸を再生する工事を開始蘇った井戸井戸横の流しの排水用であった既存の溝を利用して流れをつくり、石橋を掛ける陶片を埋め込んだ流れは、庭の排水路としての役目がある
工事の掘削で出てきた井戸
現代のように水道が普及していなかった時代、大きな屋敷では敷地内に井戸があることが普通でした。
私たちは、例え使われていなくても、井戸を大切にします。今回の工事でも、ガラと植木に隠れて埋もれていた井戸を再生させています。
工期の期限が迫る中で、井戸水と敷地の水を排水させる工事をほとんどライブのように現場に合わせて行いました。
スタッフのための伝いを跨ぐ溝には橋を架け、敷地外にスムーズに排水させています。

5.天然の材料で作る、アイショウの庭

〜竹、土、そして瓦で作る土塀〜


令和6年3月4日:結界となる土塀工事の開始
・土塀のための材木、竹などを積み込み現場入り。工事期限(引き渡し)は3月22日が指定される(近隣商店の方々のため、訪問見学会を開催するため)。
・宮清さんより古瓦を軽トラック4台分いただく。瓦は東日本大地震で店蔵及び蔵の屋根からずり落ちたもの。地場産で上質。
・サンプルの泥団子を作る。現場の土は、これまでの経験上、最上級の壁土であることが判明。

土塀用の土には、その土地から出たものも使います。泥団子は壁土のためのテストです。それぞれの地層(異なる堆積物がある)から採取した土で団子をつくり、現場で乾燥させて壁に最適な土を作ります。
この土地から出た土は、私の経験上では壁土として最上級の土でした。

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それぞれの庭で異なるその場にある材料、また現場の状況によって、その場に最も適した姿が必然的に現れてきます。
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土塀の基礎と骨格がわかる写真です。壁の下の方は、風雨による風化を防ぐために瓦積みとします。
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当初のご提案は真壁土塀でしたが、オープンが迫っていたため、工期の短縮が可能な「瓦積み土塀」を選択しました。
目結文の巴瓦は、北条で醤油蔵を営んでいた宮清さんからいただいた瓦である証。これからは、アイショウの庭で歴史を刻みます。
完成した庭。客室からの眺め

6. アイショウの庭 ビフォー・アフター

客室から眺める施工前の庭。
以前からある植栽が繁茂して風通しを阻害し、通路は狭くなっています。
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施工後の庭。同じ位置(客室)からの眺めです。
こちらのスペースは、客室からの景観を整えるとともに、視線を伝いから奥の景色へと運ぶことで、穏やかでゆったりとした空間を感じられるように作っています。

※土塀の種類


【真壁づくりの土塀】…真壁づくりは構造としての柱を見せることで、拡張高く整然とした修景が可能となる土塀です。
最適な柱材の用意と手斧(ちょうな)がけ、仕上げ土の用意など、柱を中に入れる大壁づくりと比較して、より多くの材料と手間が必要となります。

→土塀の施工例:
・大壁…風に染まる〜Accented by the wind
・真壁…奥行きを〜Giving depth

→参考動画:庭の仕事チャンネル
「作ってみよう!【真壁土塀】」
https://youtu.be/U5KidiHqNhI?si=LVQRhbRj3TgOX7VS