現場
Project

つくば市北条・一棟貸しの宿「アイショウ」の庭#1 古民家リノベーション〜 古木を活かした再生の庭 

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ザクロの古木を土塀が抱く庭

つくば市北条の古民家リノベーションの宿「アイショウ」さんの作庭をご紹介します。

筑波山参拝の門前町として栄えてきた、つくば市北条。その歴史ある建物が立ち並ぶ通りに、築80年の古民家があります。
その建物を全面的にリノベーションした一棟貸しのゲストハウス「アイショウ」が、この春にプレオープンしました。
建物は北条で長く続いた歴史ある商家でしたが、継ぎ手なく途絶え、空き家になっていたところをオーナー様が入手され、宿泊施設としてリノベーションしました。

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オーナー様がこの物件を購入する大きな決め手となった、ザクロの古木です。
こちらの写真は、周囲にあった石やキンモクセイの木を移動して周囲を整えた工事中の様子ですが、ザクロの状況がよくわかります。
隣地境界のブロック塀とザクロとの間に見えているのは、土塀の基礎となる石と、壁土を塗る小舞を取り付ける柱です。

オーナー様からは、強い生命力と再生を感じさせるこの木を、庭の、そして宿のシンボルの一つとして引き立ててほしいとのご希望がありました。
その意向を汲み、土塀にはザクロを引き立てる背景としての役割を持たせています。
敷地境界の際にあるザクロの根は塀にまで食い込んでいましたが、大切な木を動かさずに、枯れた根を包み込むように土塀を作りました。

ザクロの古木を土塀が抱く、再生の庭

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施工直後の乾燥を待つ土塀。夕日に照らされて橙色に染まる
ザクロの古木は土塀と一体となり、その様子は山深い庵のような幻想的な風景を作り出しています。
倒れた老木は主幹部分が枯れて洞になってもなお、生き残った根元から多くのひこばえを伸ばして再生しています。

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ザクロの葉と花実の鮮やかな色は、再生のエネルギーを感じさせる
冬枯れのザクロは、春になると青々とした葉が芽吹き、初夏に濃い橙色の花を咲かせ、秋には緋色の実をつけます。
その様子は、見る人に自然が持つ力強さと不思議さを感じさせ、アイショウのテーマである「自然の再生」とリンクします。

細長い敷地形状を活かした、奥行きある庭

客室から見た庭
街道筋の町屋は表通りに来客入り口が、裏通りには通用口が面しています。双方向に通り抜けられる細長い敷地を活かし、奥行きを感じられる庭を設計しました。

石垣や瓦土塀で視界を遮り、陰影とともにそこここに間をつくります。
視線を手前から徐々に遠くに誘導し、奥行きとともに広がりも感じられる空間に。
目に入るものの全てが天然の素材で作られたどこか懐かしい空間は、忙しく働く現代人を非日常の時間と空間へと誘います。

既存の石や植木を活かし、土地の材料を使う

アイショウの初夏の庭。南天が客室前の犬走りに影を落とす
伝いに使用したやわらかな風合いの石は、通称「オンジャク石」です。
地産のもので、その昔はこの石を小さな方形にカットし、熱して懐を温めるカイロ(温石)として使いました。耐熱性があり、扱いやすい良い石です。

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客室から出て庭を見通す。右手がザクロの土塀
伝いの周囲は榛名山の山砂で仕上げています。壁との間に苔が乗り、風情が増すのが楽しみです。
庭の骨格となる石垣と石組みには、もともと庭にあった筑波石を使いました。固く、重く、一筋縄ではいかない一国な石です。
土塀の壁土はこの度の工事で敷地内から出た粘土を利用しています。そして、古瓦は地元で醬油蔵を営まれていた宮清さんからいただいたものです。2011年の震災で落ちてしまった瓦を、大切に取り置いてありました。
時ととともに風土に馴染み、変化してゆく庭となりました。

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ザクロが芽吹き、ドウダンツツジが満開となった4月の庭
移植したキンモクセイの足元には、養生のために藁を敷いています。
塀の高さを超える大きなドウダンツツジが白いベル型の花をたくさんつけて、春の訪れに心が浮き立ちます。

竹穂垣越しに見る瓦土塀
庭に使う材料は、基本的に半径100メートル以内の近場から調達しています。その土地の材料を庭に使うことで無駄を省き、庭という人工物を自然のサイクルの中に取り込む工夫です。

アイショウの庭工事では同時にワークショップも開催し、筑波大の大学生を中心にした多くの皆さんと共に土塀と竹穂垣をつくりました。
押縁の青竹は時間とともに徐々に詫びた色に変化して、庭の景色に馴染んでゆきます。

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庭の最深部。祠を移動した築山は、伝いの段差をなくすために鋤き取った土を盛り上げたもの
庭には屋敷神様が祀られた祠がありましたが、外構リノベーションの構成上、移動していただくこととなりました。
工事に臨む前には御祈祷をお願いし、築山をして新たに作った小高い山にお祀りすることで最善を尽くせたと思います。

今、その小さな祠は涼し気な杉木立の中に静かに佇んでいます。
神様はアイショウを訪れる人々を、そして再びはじまった家の歴史をこれからも見守ってくださることでしょう。

用の道

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通用口へ向かうオンジャク石の伝い。道はゆるやかに奥へ向って下っている。
裏通りから宿に入る動線はもともと勾配が大きく、段差がついていました。
「スタッフが日々通る道を歩きやすく」とのご要望から、間口から通用口までの動線をなだらかに整え、飛び石を据えて伝いとしました。
道となる動線を鋤いて出た土は、既存の石を積んで土留めとし、築山を作りました。

風景を拡張する

庭の最奥に位置する大きな物置の壁面には土を塗り、修景している
青トタンが張られた大きな物置には、客室から視界に入る壁面部分だけに小舞を組み、付け柱を取り付けます。
竹小舞に土を塗ったところです。つけ柱(構造ではなく飾りの柱)の縦のラインが正面から見た前後の土塀に奥行きと陰影を与え、風景を引き締めます。
物置の土壁も竹穂垣根と同様に、追加のプロジェクト工事として施工したものです。
多くの人が関わることで地域の人々も楽しめ、そして共に作り上げる、大変面白みのある庭づくりとなりました。

自由なあそびごころを庭に

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完成の前日、1日の作業後の風景
夜になると庭の古材で作ったオリジナルの照明が灯り、伝いの足元をひっそりと照らします。
灯篭の足を庭園灯の上に置き、さらにその上に灯篭の台と漬物石を乗せた、即興の「照明カバー」です。
そのユニークな姿はかわいらしく不思議な魅力があり、訪れる人の目を引きます。

古民家をリノベーションした「アイショウ」さんの内装としつらえ

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客間のしつらえ。床の間の壁には茅が使われています。
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茅の壁は、茅葺屋根と同じ技術を使って整えられています。
アイショウは、自然素材を使った伝統技法の内装、現代の作家の手による工藝作品の常設展など、日本の手仕事にこだわった宿です。
そこここに使われた草木や竹、土といった天然の素材は目に優しく、訪れる人の心を癒します。

二階の客室の床の間の壁は、茅で仕上げられています。
高い場所にあって見上げることしかなかった茅葺屋根の軒を、間近に見ることができる希少な仕上げです。

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客室と庭の繋がり
そして、一階の客室からはそのまま庭に出ることができます。
静かな景色を眺めながら味わう贅沢な時間が、ゆっくりと過ぎて行きます。

家を拡張し、風景を作り、街並みにつなげる庭は、建物としての家があってこそ存在できるのもの。
敷地を流れる水が川へ、やがて海へ運ばれるように、庭の風景が家と町並みをゆるやかに繋げています。

庭の完工後、オーナー様からは「やっぱり塩野さんに頼んで良かった」とおっしゃっていただくことができました。
また、生き生きと再生したザクロの写真も送っていただき、その元気な様子に私もうれしくなりました。


「アイショウ」の庭:施工データ

庭の材・・・石組み・石垣:筑波石 土塀:粘土、瓦、竹、茅、藁 伝い:オンジャク(温石)石、榛名山の山砂
庭の樹木・・・既存樹木(一本移植:キンモクセイ)

古民家の宿「アイショウ」https://aisho-hojo.jp/
〒300-4231 茨城県つくば市北条197-1

建築設計:一級建築士事務所 株式会社里山建築研究所
プロデュース・アートディレクション:おそよか

2024年7月17日(水曜日)グランドオープンです。→アイショウのご予約はこちらから

※この記事は、オーナー様からも写真をご提供いただいて構成しました。ありがとうございました。